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「コミュかる」は、「コミュニケーション」と「カルチャー」を用いた造語で、2012年に創刊した杉並区の文化・芸術情報紙です(年4回発行)。区内での公演・チケット情報や文化人のインタビューをご紹介しています。
本コーナーでは紙面には掲載しきれなかった写真や「こぼれ話」を掲載しています。
杉並芸術会館「座・高円寺」芸術監督 シライケイタさん
2023年12月21日発行「コミュかるVOL.65」
Q1: シライ監督の劇団が初めて「座・高円寺」の舞台で上演されたときの話を聞かせてください。
2019年の僕が所属している劇団温泉ドラゴンで上演した『渡りきらぬ橋』という作品が最初ですね。それまで僕らの劇団は100人も入れば満員というキャパの劇場でやっていましたので、そこから一気に倍以上の250人規模の劇場になったので、不安でいっぱいでしたね。脚本は同じ劇団の原田ゆう。僕が演出を担当したんですが、本当にこの脚本でいいのか、僕の演出で観客は満足するのか、役者の芝居はスケールに見合っているのか等々、あらゆる部分でぶつかり合って作り上げました。
Q2: 舞台を作り上げていく中で、お客さんはどう関係しているのでしょう?
演出をするにあたって、僕がおもしろいと思うものを作り上げていくわけですが、それだけだと独りよがりの作品になってしまうので、お客さんが喜ぶものを提供する、お客さんのリアクションも想像しながら稽古を重ねていきます。演出を始めた頃、ここで観客の笑いをとると想定していた場面で、まったく笑いが起きない、誰もクスリともしない、なんてことはよくありました。もう冷や汗ダラダラですよ(笑)。しかしこればかりは経験をいくら積んでも多少はあります。自分の想定外の反応が起きるということは。それはやはり自分とは違う方々にお見せするわけですから、反応が違って当然なんです。そうしたお客さんの反応を踏まえて演出面でブラッシュアップしていくこともあれば、俳優陣が自分の芝居を少しずつ変えていくということもあります。稽古場の最終日の芝居と千秋楽の芝居がまったく同じということは無いですからね。例えばコメディ作品でお客さんにうける場面があるとします。俳優はうければ気持ちよくなりますから、もっと笑いを取ろうと思って芝居を変えて、更に大きな笑いをとることもあります。しかし作品全体の中でそのシーンはそこまで大きな笑いを取る必要はない場面だった場合、その笑いは作品の質を落としている可能性もあるわけです。だから演出家が客観的な視点で作品全体をコントロールしていくこともあります。
Q3: 脚本はどのように書いているのでしょうか。
僕は脚本を書くにあたって、何(テーマ)を、どう書く(構成する)のかが大事なことだと思っています。お客さんに自分は何を伝えたいのか、訴えたいのか、というテーマがなければ、捧腹絶倒でどんでん返しのある話をテクニックだけで書けたとしても、中身のない話になってしまうので、意味がないと思います。書きたいテーマが決まれば、今度はそれをどう展開して見せていくのか。例えば物語は時系列で進行していくのか、あるいは時系列を入れ替えて構成を複雑にするのか、誰の視点で語るのか、語り部を立てるのか、立てないのか等々の構成を詰めていきます。脚本家はこの構成力のセンスが一番問われる部分かと思います。テーマと構成が決まれば、セリフはそれほど難しくはありません。後は登場人物たちが自然と語り出していきます。僕の場合、書き進めながらキャラクターが確立していくので、最初に戻って書き足したり、一から書き直すこともよくあります。
Q4: シライさんはご自身が役者ですが、これは演出をする上でプラスになっていますか? 逆にやりにくい部分などありますか?
プラスになっていると思います。俳優をやっているときに、演出家から言われたことは忘れていませんので、自分が俳優に演出を付ける際は細心の注意を払っていますね。演出する上でやりにくい部分はありませんが、反対に俳優として出演するときはものすごくやりにくいです。周りは演出家としての僕をイヤでも意識してしまうようなので。僕は役者をやるときは演出家としての目線は一切持たないようにしています。なぜなら、役に集中するということは他のことを考える余裕なんてないんですよ。僕の場合はどちらかに集中した方が絶対にクオリティの高いものができます。
プロフィール
杉並芸術会館「座・高円寺」芸術監督 シライケイタさん
1974年東京生まれ。大学在学中に蜷川幸雄演出作品で俳優デビュー。その後、野田秀樹、木村光一、鐘下辰男などの演出家の舞台に出演。2010年、劇団温泉ドラゴン旗揚げ公演に初戯曲を提供。以降、同劇団内外で数々の脚本・演出を手掛ける。2013年、文化庁・一般社団法人日本演出者協会主催「若手演出家コンクール2013」にて優秀賞と観客賞を受賞。2017年、第25回読売演劇大賞において杉村春子賞を受賞。
「コミュかる」は以下の杉並区役所公式ホームページでお読みいただけます。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/kusei/bunka/johoshi/1073859.html